読書記録34:大腸菌 進化のカギを握るミクロな生命体
大腸菌 進化のカギを握るミクロな生命体
カール ジンマー (著), 矢野 真千子 (翻訳)
いつものように研究室の戸棚からとってきて読んだのだが,個人的には,自分用に買って置いときたいと思った本.この本をこのタイミングで読むことが出来て本当に良かったなあと思っている.
平たくいうと,大腸菌とはどういう生き物なのだろうかということを,分子生物学の発展を紐解きながら紹介する本である.そのことは帯の背表紙側にも端的に書かれている
「もし,”ばい菌”についての本を一冊だけ読みたいなら,この本を
お勧めする」
「分子生物学の発展にもっとも貢献してきた”知られざる立役者”についての,すばらしい伝記だ!!」
著者は気鋭のサイエンス・ライターであり,本書は分類としては一般向けといえる.しかし科学の知識に疎い一般人が読み物として読むにはややハードルが高いという印象.ばい菌にかかわる事柄の雰囲気を一般人に分かってもらおうとすることだけを目的とするならば,漫画ではあるがもやしもんのほうが適任であるのは間違いない.かなり骨を折って分かりやすい本を目指していると見受けられる箇所もあるのだが,時折たとえばDNAとかリボソームといった単語が無説明で登場する.であるから,全編をすらすら読めるためには高卒か大学学部教養ぐらいの生物学の知識があれば最善であると思う.しかしそうではない場合でも,興味のない部分はさっさと読み流すという読み方で充分楽しめる.なぜなら,全11章構成であるがそれぞれの章では違ったテーマ(全体としては体系付けられているが)を扱っており,各章においてもいくつかのトピックが紹介されるという具合であるからだ.そういうことで,以下では各章のタイトルを列挙してみる.ついでに各章の紹介を少ししてみる.
1 生命の軌跡
イントロダクション.
2 E.コリにあてはまることは,ゾウにもあてはまる
大腸菌発見から分子生物学幕開けの時代をざっと見る.大腸菌を題材として,生き物の中では生化学的にどういうことが起こっているのかを紹介している.
3 細菌単体としてのシステム大腸菌の行動が遺伝子レベルでどのように制御されているか,ということを,プログラムされたシステムという捕らえ方で紹介している.
4 自然界での社会生活
細菌単体のシステムの次は,細胞集団として大腸菌が自然界でどのようにふるまっているのかという紹介.ちなみに3章をきちんと理解しないでも4章の読解に支障はない.込み入った研究の話は読み飛ばすのも手だ.後半では,大腸菌の株間のバリエーション(無害なやつもいれば,O157のような病原性のものもいる)の紹介.
5 絶え間なく流れる生命の川
大腸菌にもバリエーションがあるというのは,当然進化のなせる業である.5章では大腸菌を題材として生物の進化を理解しようとする研究の紹介がなされている.この章ではまず,進化によって種がどのように変化しているか,あるいはしうるのかという話.
6 存続を賭けての戦略
引き続き進化の話であるが,一言でいうと進化過程における生物集団のふるまいについて,すなわち集団遺伝学についての紹介.
7 進化のスピード
引き続き進化の話.環境変化が進化にどのような影響を及ぼすか,というような話.抗生物質とそれに耐性を得た薬剤耐性菌の出現の話を題材として,薬剤耐性菌の出現には菌の間での遺伝物質の水平伝播が関わっているという紹介.
8 オープンソースの遺伝子マーケット
遺伝物質の水平伝播の話が引き続いて,環境を通じて遺伝子を共有する生物群は,まるでオープンソースによるソフトウェア開発だなあという話.生物の類縁関係の系統樹を書く話にも触れるが,遺伝子の水平伝播が異種間で起こっているならば,種の境界は我々が理解しているよりもあいまいであるのではないかという問いかけ.
9 生命の起源にさかのぼる
引き続き生物の系統樹の話.そこから生命の起源を論じている.またここで避けて通れない話題(とりわけキリスト教圏では)として,進化説と創造説の戦いについて,アメリカ某州の教育委員会に対する訴訟を題材にして紹介している.当然であるが創造説はばっさり切られている.創造説論者は大腸菌の鞭毛を題材に,「鞭毛のような複雑な構造体が変異と自然淘汰によって少しずつ出来上がるとは考えられない」という論陣を張るが,これに対する応酬は個人的には大きな見所の1つであると思った.
10 生命を人工設計する
1970年台に遺伝子組み換え技術がはじめて登場した際の,倫理面や生態系への影響が議論された例が紹介されている.現在バイオテクノロジーの発展により動物やヒトに対する遺伝子組み換えが可能となり,その是非を巡った議論が沸き起こっているが,筆者は1970年台の議論とその後30年の人々の倫理観の変化を教訓に,解決の糸口を見出そうとしている.
11 さて,地球外の生命は?
これはもう読んで字の如く,地球外に生命はいるのかどうか,居たとしたら我々と共通点はあるのかどうかという事について.これに関しては研究事例も多くないので,短くまとめて収束に向かっている.
カール ジンマー (著), 矢野 真千子 (翻訳)
いつものように研究室の戸棚からとってきて読んだのだが,個人的には,自分用に買って置いときたいと思った本.この本をこのタイミングで読むことが出来て本当に良かったなあと思っている.
平たくいうと,大腸菌とはどういう生き物なのだろうかということを,分子生物学の発展を紐解きながら紹介する本である.そのことは帯の背表紙側にも端的に書かれている
「もし,”ばい菌”についての本を一冊だけ読みたいなら,この本を
お勧めする」
「分子生物学の発展にもっとも貢献してきた”知られざる立役者”についての,すばらしい伝記だ!!」
著者は気鋭のサイエンス・ライターであり,本書は分類としては一般向けといえる.しかし科学の知識に疎い一般人が読み物として読むにはややハードルが高いという印象.ばい菌にかかわる事柄の雰囲気を一般人に分かってもらおうとすることだけを目的とするならば,漫画ではあるがもやしもんのほうが適任であるのは間違いない.かなり骨を折って分かりやすい本を目指していると見受けられる箇所もあるのだが,時折たとえばDNAとかリボソームといった単語が無説明で登場する.であるから,全編をすらすら読めるためには高卒か大学学部教養ぐらいの生物学の知識があれば最善であると思う.しかしそうではない場合でも,興味のない部分はさっさと読み流すという読み方で充分楽しめる.なぜなら,全11章構成であるがそれぞれの章では違ったテーマ(全体としては体系付けられているが)を扱っており,各章においてもいくつかのトピックが紹介されるという具合であるからだ.そういうことで,以下では各章のタイトルを列挙してみる.ついでに各章の紹介を少ししてみる.
1 生命の軌跡
イントロダクション.
2 E.コリにあてはまることは,ゾウにもあてはまる
大腸菌発見から分子生物学幕開けの時代をざっと見る.大腸菌を題材として,生き物の中では生化学的にどういうことが起こっているのかを紹介している.
3 細菌単体としてのシステム大腸菌の行動が遺伝子レベルでどのように制御されているか,ということを,プログラムされたシステムという捕らえ方で紹介している.
4 自然界での社会生活
細菌単体のシステムの次は,細胞集団として大腸菌が自然界でどのようにふるまっているのかという紹介.ちなみに3章をきちんと理解しないでも4章の読解に支障はない.込み入った研究の話は読み飛ばすのも手だ.後半では,大腸菌の株間のバリエーション(無害なやつもいれば,O157のような病原性のものもいる)の紹介.
5 絶え間なく流れる生命の川
大腸菌にもバリエーションがあるというのは,当然進化のなせる業である.5章では大腸菌を題材として生物の進化を理解しようとする研究の紹介がなされている.この章ではまず,進化によって種がどのように変化しているか,あるいはしうるのかという話.
6 存続を賭けての戦略
引き続き進化の話であるが,一言でいうと進化過程における生物集団のふるまいについて,すなわち集団遺伝学についての紹介.
7 進化のスピード
引き続き進化の話.環境変化が進化にどのような影響を及ぼすか,というような話.抗生物質とそれに耐性を得た薬剤耐性菌の出現の話を題材として,薬剤耐性菌の出現には菌の間での遺伝物質の水平伝播が関わっているという紹介.
8 オープンソースの遺伝子マーケット
遺伝物質の水平伝播の話が引き続いて,環境を通じて遺伝子を共有する生物群は,まるでオープンソースによるソフトウェア開発だなあという話.生物の類縁関係の系統樹を書く話にも触れるが,遺伝子の水平伝播が異種間で起こっているならば,種の境界は我々が理解しているよりもあいまいであるのではないかという問いかけ.
9 生命の起源にさかのぼる
引き続き生物の系統樹の話.そこから生命の起源を論じている.またここで避けて通れない話題(とりわけキリスト教圏では)として,進化説と創造説の戦いについて,アメリカ某州の教育委員会に対する訴訟を題材にして紹介している.当然であるが創造説はばっさり切られている.創造説論者は大腸菌の鞭毛を題材に,「鞭毛のような複雑な構造体が変異と自然淘汰によって少しずつ出来上がるとは考えられない」という論陣を張るが,これに対する応酬は個人的には大きな見所の1つであると思った.
10 生命を人工設計する
1970年台に遺伝子組み換え技術がはじめて登場した際の,倫理面や生態系への影響が議論された例が紹介されている.現在バイオテクノロジーの発展により動物やヒトに対する遺伝子組み換えが可能となり,その是非を巡った議論が沸き起こっているが,筆者は1970年台の議論とその後30年の人々の倫理観の変化を教訓に,解決の糸口を見出そうとしている.
11 さて,地球外の生命は?
これはもう読んで字の如く,地球外に生命はいるのかどうか,居たとしたら我々と共通点はあるのかどうかという事について.これに関しては研究事例も多くないので,短くまとめて収束に向かっている.
by zako_zako | 2010-03-07 20:30 | 読書記録 | Comments(2)
こんにちは。『大腸菌』の担当編集者です。
このたびは、すてきな書評をありがとうございました!
「こういうポピュラー・サイエンスが読みたかった!」と私自身が一目ぼれした本なので、
zako_zakoさんのような若い理系研究者に楽しんでいただけるのは、
ほんとうにうれしいです。
これからも、ちょっと変わっていて楽しいサイエンス書を出していきたいと思いますので、
どうぞよろしくお願いいたします!
(ちなみに、生物学ものではないのですが、この3月末に、パンチの効いた宇宙・天文学ものを刊行します。
どこかで見かけたら、ぜひお手にとっていただけますと幸いです)
このたびは、すてきな書評をありがとうございました!
「こういうポピュラー・サイエンスが読みたかった!」と私自身が一目ぼれした本なので、
zako_zakoさんのような若い理系研究者に楽しんでいただけるのは、
ほんとうにうれしいです。
これからも、ちょっと変わっていて楽しいサイエンス書を出していきたいと思いますので、
どうぞよろしくお願いいたします!
(ちなみに、生物学ものではないのですが、この3月末に、パンチの効いた宇宙・天文学ものを刊行します。
どこかで見かけたら、ぜひお手にとっていただけますと幸いです)
こんばんは。「大腸菌」の担当編集者様。
このような辺鄙なブログにわざわざ来ていただいて、非常に恐縮しております。ここにはいい加減な読書感想文しかないと自負しておりますが、喜んでいただけたようですので、たいへん嬉しいです。
僕はここ数年来、大腸菌を研究材料として学位の取得を目指しておりまして、ちょうどそんな矢先にこの本との出会い、とても感激しておりました。微力ながらこの本の普及に協力させていただきたいと思っております。
ちょっと変わっていて楽しいサイエンス書は僕も大好きですので、楽しみにしております。今後のご活躍をお祈りします。
このような辺鄙なブログにわざわざ来ていただいて、非常に恐縮しております。ここにはいい加減な読書感想文しかないと自負しておりますが、喜んでいただけたようですので、たいへん嬉しいです。
僕はここ数年来、大腸菌を研究材料として学位の取得を目指しておりまして、ちょうどそんな矢先にこの本との出会い、とても感激しておりました。微力ながらこの本の普及に協力させていただきたいと思っております。
ちょっと変わっていて楽しいサイエンス書は僕も大好きですので、楽しみにしております。今後のご活躍をお祈りします。


